みなさんはそのこだわりをちゃんと説明できますか?

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読書オタクが語る日本図書シリーズ 第89回

~『なぜ中国人は財布を持たないのか』(中島恵著)を読んで学んだこと~

 

説明しても相手が納得できないのなら、それは自分が本質を理解していないということ。

 

本書は、ヤフーニュースか何かで取り上げられていた記事を読み、アマゾンで購入しました。

中国では最近キャッシュレス化が、急速に、どころか、マッハで進行しており、文字通り財布を持たない人が急速に増えています。とは言っても、それもやや語弊があり、私の理解では、中国人で、特に男性で財布を持っている人は元々多くなかったような記憶があります。

細かな説明は本書にゆずりますが、それは、様々な理由で元々財布を使う習慣がある人が少なかったため、お金が財布から出てこなくても違和感を覚える人が少なく、自然と使わない人が多かったのではないかと思っています。とにかく、ポケットからお金を裸で出す人やクリップで留めているだけの人が多かったですし、今でも多いです。女性は流石に前からお財布を使っている人が多かったような記憶がありますが、とにかく、男性で使っている人は稀でした。

そういう意味では、日本ではお金を裸で持ち歩くのがマナー違反的な部分もあるため、財布を使っている人が多いですし、特に年配の女性の場合は、お札と小銭入れを分け、さらにその小銭入れも小銭の大きさに合わせて複数持っているというツワモノも少なくないです。

それはともかく、財布を使う人が少なかったのに、キャッシュレス化の進行によってさらに財布を使う機会が無くなったのは間違いないと思います。実際、私も、中国で外出時は一応財布を持ち歩いていますが、スマホだけで決済し、財布を一度も出さないという日が結構あります。つまり、今の中国では、財布はもはやカードケース化していますが、WeChatペイやアリペイにおされて、そのカードすら使わないという人がほとんどでしょう。

前置きが長くなりましたが、この辺の詳細は本書を詳しく読んでいただくとして、以下に私が本書を読んで気になったところをご紹介します。

 

 


画像引用元:https://pixabay.com/ja/財布-クレジット-カード-現金-投資-お金-金融-ファイナンス-2292428/

【この本のポイント!】

 

違いはあるけれど、やはり人間は同じ

(中略)一〇年に中国が日本をGDPで逆転したときに、奇しくも中国人の男子大学生、張成氏は、「国と国との関係を上下関係で見るのはおかしい」といった。
もちろん、経済の発展度合いなど、数値化しやすい指標だけを見れば、国全体の状態として、どちらが発展している、していないと議論することはできる。
しかし、国と国、国民と国民について上下関係で捉えることとは話が別だ。国同士、国民同士を上下関係で捉えれば捉えるほど、一人ひとり個性を持った相手の顔が見えなくなり、お互いを「日本人」「中国人」という、漠然とした架空のイメージだけで認識しがちになる。これはとても生産的とはいえない。(中略)
中国には日本には存在しない社会の構造的差別や複雑な制度があり、その詳しい事情を知らない日本人の目には「異質な国、異質な人々」と映る。また、歴史的、文化的背景から、日本とは文化・社会が大きく違う面があるのも確かだ。
しかし、彼らがいきている社会の背景をよく知れば、私たちが抱いている図式的な中国人像についても、文化・社会環境が彼らをそうさせている(そうせざるを得ない)面があることがわかる。
一皮むけば人間はみんな同じ、同じように喜び、同じように悲しみ、もがきながら必死で生きているということも理解できる。
それがわかれば、もっと素直に付き合えるし、もう少し寄り添いあえる。少しでもいい関係になれるのではないかと思う。(後略)

『なぜ中国人は財布を持たないのか』P210~P212

 

「日本人は細部にこだわりすぎ」という中国人への異見

(中略)日本人は製品の性能に影響を及ぼさないのに、目に見えないキズがあるだけで出荷停止にしてしまう。そのことに納得できない中国人社員が「日本人はいつも精密にしなければと思うのでしょうけれど、それは日本のやり方を押しつけているだけだ」と反発する。
そして、「今の中国企業にはたくさんの仕事があるんです。苦労して日系の仕事を引き受けなくても困らない。世界中の企業が中国の市場を求めてやってきているのですから」という。
それに対して日本人上司は「日本のお客様は品質に非常に厳しい。わずかなキズがあるだけで商品価値がなくなる」と説いたそうだが、中国人社員は納得できなかった……。
このくだりを読んだ日本人読者が私にメールをくれた。欧州の駐在経験が長いエンジニアだということだったが、彼はこんな意見を聞かせてくれた。
「これは私の経験からくる個人的な意見ですが、製造業、エンジニアリングの神髄は何か?と問われたら、何千、何万回と事実確認をきちっと積み上げることだ、と答えます。そこが製品の品質の良し悪しを決める分かれ目なのです。
技術はある意味シンプルです。事実を積み上げ、途中の確認を怠らなければ、間違いなく品質のよい製品ができます。小さなキズについてですが、本当に求められる性能、品質を一〇〇パーセント守るためには、その他の部分もきっちりこなす姿勢が重要です。性能に直接関係のないキズくらい……と思われるかもしれませんが、『これくらい』という態度で仕事をしていると、肝心のところもどこかで手を抜いてしまう。そういうものだと思います。」(後略)

『なぜ中国人は財布を持たないのか』P218~P220

 


画像引用元:https://pixabay.com/ja/お金-財布-ファイナンス-現金-ビジネス-人-手-男性-金融-3219298/

 

ここを読んで、以前、仕事で中国のある工場を訪れた時のことを思い出しました。

昔ながらの手帳を大量生産している工場の社長と打ち合わせしていた時のことです。私は日本の方々と一緒にその工場を訪れたのですが、用件を終えた後、先方の社長が、よい機会なので本題とは別に聞きたいことがあると言って次のことを言ってきました。

今、この工場では、別の日本のお客様の仕事をやらせていただいているが、日本人はなぜそこまで細かいのか?完成品の寸法が0.1mm違うことを指摘する気持ちはわからないでもないが、そこの品質にかける時間と労力をもっと別のところに回した方が、トータルでいいのではないか?

という疑問を、日本からの訪問客に率直に投げかけていました。
私は正直、なるほどな、と思いました。日本人も日本の会社も確かに細かなところを気にし過ぎだし、実際そこがダメでも、特にこのような手帳の出来上がりの寸法が0.1mm違うだけであれば、別にだれかの命にかかわるというわけでもありません。モノによっては誤差と言えるような範囲内の差であれば、使うに支障はないため、そこまで目くじらを立てる必要はないのでは?と感じました。

少なくとも、彼のこの合理的な意見に対して、私はものすごく納得したわけです。
ところが、日本側の回答は、

確かに我々もそこについてはジレンマがあります。実際、我々も日本のお客様からそのような品質に関する細かな指摘を受けます。ただ、品質というものは積み重ねなので、あることを疎かにすると、それが積み重なって最終的にできた製品の品質は目も当てられないものになってしまう。だから、細かなところも無視できない。ただ一方で、おっしゃることもごもっともで、我々としても、常にそのバランスの狭間で悩んでいます。

というような回答でした。そして、これはこれでとても納得し、感心しました。

つまるところ、どちらかが正しくてどちらかが間違っているという話ではないと思います。どちらも正しいです。要は、バランスの問題だと思います。

 

一介の読書オタクより

 


画像引用元:https://www.amazon.co.jp/なぜ中国人は財布を持たないのか-日経プレミアシリーズ-中島-恵/dp/4532263565/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1526121128&sr=1-1&keywords=%E3%81%AA%E3%81%9C%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E3%81%AF%E8%B2%A1%E5%B8%83%E3%82%92%E6%8C%81%E3%81%9F%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%AE%E3%81%8B

 

参考図書:『なぜ中国人は財布を持たないのか』
発行年月:2017年10月
著者:中島惠(なかじま・けい)
発行所:日本経済新聞出版社

※本記事の写真はすべてイメージです。本記事は参考図書の一部を引用したうえで、個人的な感想を述べているに過ぎません。参考図書の実際の内容は、読者ご自身によりご確認ください。

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