あなたがやっていることは芸術ですか?あるいは芸ですか?

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読書オタクが語る日本図書シリーズ 第111回

~『今日の芸術』(岡本太郎著)を読んで学んだこと~

 

芸術と芸は似て非なるもの。

 

前に読んだ岡本太郎さんの本も衝撃を受けましたが、本書も同じく衝撃を受けました。

何よりも驚くのが、この内容の本を1954年に刊行していたということです。そして、当時、岡本太郎さんが提起していた日本に関するありとあらゆる問題が、60年以上経った今でもほとんど変わっていないということです。

日本人は60年以上、岡本太郎さんに説教されているようで残念ですが、少しでも多くの日本人に本書を読んでいただけるよう、読書オタクも貢献したいと思います。

では、以下に特に衝撃を受けた箇所を引用します。

 


画像引用元:https://pixabay.com/ja/落書き-壁-壁画-絵画-芸術-カラフルです-都市-グランジ-569265/

 

【この本のポイント!】

 

芸術と芸ごと

 

芸能の世界

芸術について、一般にたいへんな見当ちがいをしています。今日、多くの人がほんとうに芸術だと思いこんでいる、また創る側からも、「芸術」と称して、世間にはばをきかせているもののほとんどが、じつは芸術ではないのです。
「それじゃあなんだ」とおっしゃるでしょう。それは「芸ごと」とか「芸」とかいうものにすぎないのです。私は芸術と芸というものを、はっきり区別しなければいけないと主張します。(中略)
芸術は創造です。これは、けっして既成の型を写したり、同じことをくり返してはならないものです。他人のものはもちろんですし、たとえ自分自身の仕事でも、二度とくり返してはならない。昨日すでにやったことと同じようなことをやるのでは、意味が無いのです。(中略)つまり、芸術の技術は、つねに革新的に、永遠の創造として発展するのです。これが芸術の本質です。
ところで、芸ごとはどうでしょうか。これは芸術とは正反対です。つねに古い型を受けつぎ、それをみがきにみがいて達するものなのです。芸術が過去をふり捨てて新しさに賭けてゆくのに、芸道はあくまでも保持しようとつとめます。(中略)芸ごとには、かならず家元制度というのがあります。これは同一の型をきわめて厳密に後世に伝えてゆく、たいへんな組織です。(中略)よく考えてみれば、今日なお、そのなごりがあるのです。学界のガンになっている学閥、派閥というヤツがそれです。
しかし、なんといっても、この遺風が典型的に保たれているのは、芸能の世界です。(中略)
こういうものは、お師匠さんのやるとおりを繰りかえして、その型を覚えることがたてまえなのですから、それから少しでもはずれた歌い方をすれば、もちろんそれは、もうその流派のなかにははいらない。お師匠さんでさえ、家元でないかぎり、かってに新しい面を開拓するなんてことは、許されないのです。どうしても芸術的良心があって、おのれを貫きとおしたい人は、その流儀をはなれるほかないわけです。そして何々流というのをべつにこしらえる。
だが、これは言うまでもなく、たいへんなことで、けっしてだれにでもできるというものではありません。すでに、かなりの地位と、あらゆる意味での力を持っていなければなりません。かつてはこのようにして、ときどき、独自の名人が出て分派を開いたこともあったのですが、しかし芸ごとの世界では、それもただちに固定してしまいます。家元制度というものは、その門下から新しい分派が出てくることをひじょうに警戒し、嫉妬ぶかく抑え、自流の世界を守ろうとするものです。そのためには、じつに周到で、うまくできています。だから芸術の絶対条件である自由とか独創などを主張しようとしたら、ただちに食いっぱぐれて、生活できなくなってしまうわけです。
封建的な制度に窒息させられ、ギリギリ縛りつけられて身動きがとれない、こんな土台からは、これからの芸術的発展などは、ぜったいに望めません。(後略)

『今日の芸術』P205~P209

 

「芸術」という言葉の身元は

ところで、芸術という言葉自体は、はえぬきの日本語ではありません。明治時代に西欧近代化の輸入とともに、新しく導入された近代的観念です。幕末の思想家、佐久間象山(ぞうざん)は「東洋の道徳、西洋の芸術」といったそうですが、このときは、まだ今使われているような意味ではなく、学問、技術というような意味だったのでしょう。もっと前、江戸時代には剣術の本の題に、「芸術」が使われた例があります。武芸の芸、剣術の術です。(後略)

『今日の芸術』P212

 

技術と技能

つぎに芸と芸術の区別をテクニックのほうで考えてみると、さらにはっきりしてきます。ちょうど芸と芸術を区別したように、ここでは「技術」と「技能」ということを分けて考える必要があるのです。
芸術の本質は技術であって、芸の本質は技能です。
技術は、つねに古いものを否定して、新しく創造し、発見していくものです。つまり、芸術について説明したのと同じに、革命的ということがその本質なのです。(後略)

『今日の芸術』P217

 


画像引用元:https://pixabay.com/ja/ペイント-化粧-女の子-化粧品-色-創造性-女性-赤-目-2985569/

 

芸術=創造

芸=コピー

 

このように書くと単純ですが、とは言え、じゃぁ芸はダメなのかというと、そんなことはありませんし、岡本太郎さんも芸がいいとか悪いとか、芸はダメだとか、芸を否定しているわけではありません。ただ、芸術と芸、新たに生み出す行為と人まねを極める行為とはまったく異なるということを主張しているだけです。

そもそも、人間がオギャーと生まれて何もない状態のときは、本人にとっては見るものすべてが新しいものであり、本人にとってはやることすべてが創造ですが、今の世の中に無いものを新たに生み出す。という創造性を発揮することは難しいでしょう。

武道一つとっても、空手や柔道や剣道やらいろいろありますが、たとえある人が既存の武道に異を唱えて、未知の武道を立ち上げるとしても、既存の武道をまったく知らないで新たに立ち上げるということは基本的にあり得ないと思います。四則演算もできないで新たな数式を発案して解析するようなものです。

既存の武道を理解するためには、まずは師匠や先輩から基本的な動きや型を習い、それを習得する。そのうえで、新たに自分なりの創意工夫を加えて既存のやり方を改革するか、反発して新しい流派を起こすか、また、そもそも流派やなどを超えて、もっと飛躍して新たなジャンルの武道を立ち上げるということになると思います。

つまり、本引用箇所を読む限りでは、芸術と芸は水と油で相いれないものというように感じる人もいるかもしれませんが、基本的に、芸術は芸の進化版であるともいえます。

芸があるから芸術が生まれる。
技能があるから技術が必要とされる。

芸というマンネリに耐えられない人が、芸術という創造性を発揮する。
後継者問題などで、特定の人に技能に頼る体制に危機感を覚えた結果、産業用ロボットなどの新しい技術を導入してそのリスクを逓減させる。

問題は、芸と技能だけだと世の中が進歩しないということです。
進歩しなければ現状維持かというとそうではありません。

時計の針は常に進み続けていますし、今この時も地球は周っています。つまり、止まっているということは、自然の力によって後ろに下がっているということです。

芸や技能のレベルを上げなければ芸術や技術にまで到達することはできません。ただ単に複数の芸や技能を覚えただけではダメです。それを身に付けて、芸術や技術にまで昇華させなければ進歩しません。

そのためには立ち止まっているヒマなどありません。

テクノロジーの発達により、芸や技能といったものは、今後ますますAIやロボットといったものに置き換わっていくでしょう。実力のあるデザイナーやエンジニアの価値が上がっているのもうなずけます。すべての人が、芸術家や技術者になるか、はたまた社畜に成り下がって、長い物にただ巻かれて隷属者として人生を終えるかの選択を迫られています。

後者のような生き方が嫌なら、岡本太郎さんのように真剣に世の中と向き合い、今を生きて、創造性を発揮して生きていくしかありません。

世の中に真の芸術家が増えることを願うばかりです。

 

一介の読書オタクより

 


画像引用元:https://www.amazon.co.jp/今日の芸術―時代を創造するものは誰か-光文社知恵の森文庫-岡本-太郎/dp/4334727891/ref=sr_1_fkmr1_1?ie=UTF8&qid=1539332885&sr=8-1-fkmr1&keywords=%E4%BB%8A%E6%97%A5%E3%81%AE%E8%8A%B8%E8%A1%93%E3%80%80%E5%B2%A1%E6%9C%AC%E5%A4%AA%E9%83%8E+1999

 

参考図書:『今日の芸術 時代を創造するものは誰か』
発行年月:1999年3月
著者:岡本太郎(おかもと・たろう)
発行所:光文社

※本記事の写真はすべてイメージです。本記事は参考図書の一部を引用したうえで、個人的な感想を述べているに過ぎません。参考図書の実際の内容は、読者ご自身によりご確認ください。

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