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読書オタクが語る日本図書シリーズ 第51回

~『上杉鷹山の経営学』(童門冬二著)を読んで学んだこと~

 

経営改革は人づくりから

 

前回は、マネジメント論の権威である、ピーター・ドラッカーの本をご紹介しました。今回ご紹介するのは米沢藩主の上杉鷹山について書かれた本で、もちろん、彼はドラッカーとは縁もゆかりもありませんし、読書オタクの気のせいかもしれませんが、なぜか書いてある内容がドラッカーの本と通じるところが多々あります。よって、このタイミングで本書をご紹介することにしました。

上杉鷹山が藩主として米沢藩に赴任した時は、財政破綻寸前というか、既に、実質財政破綻しているような状態で、人心も荒んでいましたが、それに対して、鷹山は情愛によってまず人を育て、地道に組織改革して見事に藩の財政再建を果たします。

本書はご紹介したいところが山ほどありますが、引用箇所を順に読んでいくことにより、鷹山がどのように人材育成に取り組み、組織改革をし、財政再建を成し遂げたのかがわかるように配慮しています。では、まずは以下の引用箇所をごらんください。

 


画像引用元:https://pixabay.com/ja/%E5%B1%B1-%E3%83%91%E3%82%B9-%E9%9B%B2-%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%88-%E3%83%98%E3%82%A4%E3%82%BA-%E3%83%9B%E3%83%90%E3%83%BC-%E3%82%B7%E3%83%AB%E3%82%A8%E3%83%83%E3%83%88-%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%B3-%E9%9D%92-863474/

【この本のポイント!】

(前略)「経営改革というのは、たんにバランスシートに生じた赤字をゼロにすることではない。改革を進めるには、人づくりが大切だ。人づくりを無視した改革は決して成功しない」(中略)
「客に対するサービス精神を何よりも経営の根幹に置くべきである」(中略)
「お客さんのためにわれわれは存在する」(中略)
「品物を使う側や、サービスを受ける側の身になったとき、われわれが差し出すものは、はたして満足を得ているだろうか。もっと注文があるのではなかろうか?」(中略)
「しかし、そういうことを行うにつけても、やはり人が問題だ。人が育たなければ、そういうことも不可能になる」(中略)
「上杉鷹山公の行った経営改革は、赤字を消しただけではない。人間の心の赤字を消したことだ。人々の胸に、もう一度他人への愛、信頼という黒字が戻ったのだ。」(後略)

『上杉鷹山の経営学』P3~6

(前略)人材登用は誰でもやることだが、鷹山は特に、
「職場の問題児」
を登用した。
「トラブルメーカーのほうが、イエスマンよりもよほどパワーを持っている」
と判断したためであった。
要約すれば、鷹山は、
「経営改革の目的は、領民(おとくいさん)を富ませるためである」
と明記し、その方法展開は、
「愛と信頼」
でおこなおうとしたのだ。(中略)
「やる気のある者は、自分の胸に火をつけよ。そして、身近な職場でその火を他に移せ」(後略)

『上杉鷹山の経営学』P18~19

(前略)「改革の根本に優しさといたわり、思いやりがまったく欠けている」(中略)
「改革は、愛といたわりがなくてはならない」(後略)

『上杉鷹山の経営学』P66~67

(前略)「朝令暮改はけしからんとお前は言ったが、たしかにそういう解釈もあろう。しかし、私は誤って改むるに憚ることなかれ、という中国の古語を信じている。私は誤ったのだ。だからすぐそれを改めたい。憚らないわけではないが、さっきの決定は、禍根を残す。したがってやはり例外を作らないような方針で改革を実行したい」(後略)

『上杉鷹山の経営学』P95

(前略)鷹山の人間管理の原則は、
「してみせて、言って聞かせて、させてみる」
というものであった。何につけても理屈だけではない、よくその趣旨を説明し、趣旨を分かってもらったところで、今度は自分が実行してやってみせる、手本を見せてそれに従わせるというのが鷹山の方針であった。
そして、自分に出来ないことは、正直に自分の限界を示し、出来る者に協力してほしいと頼むのである。(後略)

『上杉鷹山の経営学』P129

(前略)「城内の藩士たちの勤務ぶりを見ていると、必ずしもすべてが仕事があって城に来ているのではないように思える。特に文書を扱う部署では、一日中、てにをはの使い方を論議していて、終日暮らしてしまうような者もいる。これはお互いに無駄ではないか。大体そういう仕事は廃止すべきだし、そういう職場もいらない。文章などというものは、修飾語に労を費やすのではなく、いつ、どこで、誰が、何のために、何をしたという五つの要点が備わっていればそれでよい」(後略)

『上杉鷹山の経営学』P132

(前略)トップはつねに時代とともに歩む。社会が変化すれば、その企業に対するニーズも変わる。そのニーズに応えるには、企業も企業人も変わらなければならない。特にトップを補佐する重役層は、このへんをよく考える必要がある。
それは、
○社会の状況の変化で、所属企業に何が求められているのかを知り、
○そのニーズに応えるには、いまの企業目的や組織や社員の意識が、それでいいのかどうかを反省し、
○それをどう改革して、上を補佐し、下を指導するか、
ということを、自分で的確に把握することである。
それが、トップ側近の補佐役の責務だ。(中略)
(私が処断するのではない。歴史が処断するのだ)
と言いながら、
竹俣のようなタイプは、企業草創時の功労者の中にたくさんいる。しかし、いつまでも、昔の功にしがみついていると、結局は、歴史に処分される。

『上杉鷹山の経営学』P191~192

(前略)世の中が多元化し複雑化すると、ものごとが思わぬように発展しない。そうなると人々は、どうしても他人を責めたり、状況のせいにしたりすることが多い。しかし、鷹山はそれを突破した。鷹山の経営改革が成功したのは、すべて、
「愛」
であった。他人への労わり・思いやりであった。経営改革を、顧客のものと設定し、それを推進する社員に、限りなき愛情を注いだ。痛みをおぼえなければならない人々への愛を惜しまなかった。(中略)
そしてそれは、富むだけではなく、他人を愛する心を復活させた。鷹山が蘇らせたのは、米沢の死んだ山と河と土だけではなかった。彼は、何よりも人間の心に愛という心を蘇らせたのである。現在の世でもっとも欠けているのは、この愛と労わりと思いやりの心であろう。この心を除いては、どんなに立派な経営計画も、経営改革も決して成功はしない。(後略)

『上杉鷹山の経営学』P214

 


画像引用元:https://pixabay.com/ja/%E7%A9%BA%E6%92%AE-%E5%86%B7-%E9%A2%A8%E6%99%AF-%E5%B1%B1%E3%81%AE%E3%83%94%E3%83%BC%E3%82%AF-%E5%B1%B1%E3%81%AE%E7%AF%84%E5%9B%B2-%E5%B1%B1-%E8%87%AA%E7%84%B6-%E3%82%A2%E3%82%A6%E3%83%88%E3%83%89%E3%82%A2-1845325/

 

鷹山のすごいところは、その考え方が現在にも通用することです。ドラッカーは、組織は顧客のためにするべきミッションを決めなければならないと説いていましたが、鷹山にとっての顧客は米沢藩の領民で、彼のミッションは、その領民の生活を豊かにすることであると決めました。

これは、封建社会全盛期の時代ではかなり奇抜なことであったろうと想像できます。実際、特権階級である米沢藩の藩士たちからは、少なからぬ反発を受けています。鷹山からしてみれば、藩士も領民のうちですので矛盾はしていないのでしょうが、武士である藩士たちからすれば、他の領民と同列に「顧客」として扱われることを快く思っていない人が大勢いたのも理解できます。

また、上杉鷹山のことばとして有名なのは次の一句です。

成せばなる 成さねばならぬ 何事も 成らぬは人の 成さぬ成けり

これは、武田信玄の

為せば成る、為さねば成らぬ成る業を、成らぬと捨つる人のはかなき

の名言を模範にしたもののようですが、元祖の信玄のことばよりも、鷹山のことばのようが有名なような気がします。

これは、内村鑑三が著書の『代表的日本人』で西郷隆盛などと並んで鷹山のことを紹介したことや、アメリカのジョン・F・ケネディ元大統領(ちなみに、『代表的日本人』は英語で書かれているため、これを読んで鷹山のことを知った可能性が高い。)が、その就任演説の時に、尊敬する日本の政治家として鷹山の名前を挙げたこととも無関係ではないと思います。

 

画像引用元:https://pixabay.com/ja/%E3%82%BF%E3%83%88%E3%83%A9%E5%B1%B1%E8%84%88-%E5%B1%B1-%E7%A9%BA-%E9%9B%B2-%E3%83%98%E3%82%A4%E3%82%BA-%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%88-%E9%9C%A7-%E6%97%A5%E6%B2%A1-%E6%97%A5%E3%81%AE%E5%87%BA-2470928/

鷹山は、日本一貧乏な藩の財政を立て直しただけでなく、日本一裕福になるための道筋をつけました。ところが、そこまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。反乱分子の抵抗だけでなく、度重なる自然災害などの壁にぶち当たってきましたが、あきらめずに続けることで成し遂げました。

かのトーマス・エジソンも、失敗するのはあきらめるからだ。と言っていたようですし、松下幸之助さんも、成功させたければ、まずはできると思わなければダメだといような趣旨のことを言っていたそうです。

以前、稲森和夫さんの本を読んだとき、かつて、彼が講演で松下幸之助さんの話を聞いた時、出席者のひとりが松下さんに向かって、○○はどうすれば成功できますか?というようなことを聞いたそうです。それに対して、松下さんは考えた挙句、それがわかれば苦労しないけれども、とにかくできると思うしかない。というような趣旨のことを言ったそうです。質問者も含めて、他の出席者は、それでは答えになっていないとあきれたそうですが、稲森和夫さんはそれを聞いてハッとしたそうです。

つまり、何かをやり遂げるためには、とにもかくにも、まずは絶対にやり遂げるということを固く誓う必要があるということです。そうしてこそ、解決の方法が見つかるのでしょうし、あきらめないからこそ、最終的にやり遂げることができるということです。

多くの出席者が松下さんの発言をバカにするなかで、稲森和夫はちゃんとその答えを聞き取っていました。ソフトバンクの孫さんもホラ吹きだとバカにされることもあるようですが、彼もまず大きな目標を示し、それの達成に向かってあきらめずに続けることで、ホラのほとんどを正解に変えています。

いずれにせよ、なにごともできるできないの話ではなく、まずは絶対に成し遂げるという強い意志を持つことが大事です。そして、ひとりの力では達成できないことを、鷹山のように情愛をもって人に接することで、他の人の力も借りることができます。

今回も御多分に漏れずだいぶ話が飛んでしまいましたが(笑)、何事も一人の力では達成できません。自分自身は高い志をもち、苦しい時もあきらめずに続け、他方で人を育て、情愛をもって人に接にせっして周りの協力をえることで、より大きなことを成し遂げましょう!

 

一介の読書オタクより

 


画像引用元:https://www.amazon.co.jp/%E4%B8%8A%E6%9D%89%E9%B7%B9%E5%B1%B1%E3%81%AE%E7%B5%8C%E5%96%B6%E5%AD%A6-%E5%8D%B1%E6%A9%9F%E3%82%92%E4%B9%97%E3%82%8A%E5%88%87%E3%82%8B%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%BC%E3%81%AE%E6%9D%A1%E4%BB%B6-PHP%E6%96%87%E5%BA%AB-%E7%AB%A5%E9%96%80-%E5%86%AC%E4%BA%8C/dp/4569562736/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1502963474&sr=8-1&keywords=%E4%B8%8A%E6%9D%89%E9%B7%B9%E5%B1%B1%E3%81%AE%E7%B5%8C%E5%96%B6%E5%AD%A6

参考図書:『上杉鷹山の経営学――危機を乗り切るリーダーの条件――』
発行年月:1990年8月
著者:童門冬二(どうもん・ふゆじ)
発行所:ダイヤモンド社

※本記事の写真はすべてイメージです。本記事は参考図書の一部を引用したうえで、個人的な感想を述べているに過ぎません。参考図書の実際の内容は、読者ご自身によりご確認ください。

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