謙虚さを忘れずに相手から多くのものを学びましょう!

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読書オタクが語る日本図書シリーズ 第44回

~『人を動かす力 歴史人物に学ぶリーダーの条件』(渡部昇一著)を読んで学んだこと~

 

自分は上に人がいたほうが伸びるタイプか、あるいはいない方が伸びるタイプか

 

読書オタクとして日々さまざまな本を読んでいますが、本書は歴史上の人物を題材にして、リーダーシップなどについて書かれています。

著者の渡部(わたなべ)さんは、昨年の11月に聞き取りが行われた、平成天皇の「生前退位」について議論する有識者メンバー16人に選ばれました。賛否はともかく、彼は歴史に関して造詣が深く、専門は英語学であるものの歴史に関する本も多数出版しているようです。残念ながらつい先日の2017年4月にお亡くなりました。

本書を読んでいると、実にさまざまな歴史上の人物が登場し、しかもその捉え方も独特で、なるほどと感じるところも多々あります。どれもご紹介したいところですが、今回引用する箇所は、個人的に前々から気になっているところが含まれているため、以下に引用致します。

 


画像引用元:https://pixabay.com/ja/%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%83%E3%83%97-%E4%BE%8B-%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%BC-%E3%83%9E%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC-%E6%A9%9F%E9%96%A2-%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC-913043/

 

【この本のポイント!】

 

臆面もなき向上心を持つ

五・一五事件や二・二六事件当時の軍の上層部のダラシなさは、学校教育、ペーパーテスト教育と、それを基準にしてつくられた出世コースというものが、いかに当時の軍上層部“英雄的素質”や“熱血火の玉精神”をそこなったかという見本のようなものだ。
戦国時代には、学校教育もペーパーテストもなかったから、秀吉が、運と勘と度胸だけに頼って、その英雄的素質を十二分に伸ばすことができたのは当然と言えば当然だろう。
この秀吉の英雄的素質は難しい主人であった信長との関係にもよく表れている。(中略)
単純明快すぎるが、それは秀吉が信長を一人の人間として尊敬していたという事実である。つまり、他の家来たちは信長をただの主人として偉いと思っていただけだが、秀吉は信長を一人の人間として心底から尊敬していたのである。
「あの人はすごい人だ。俺はとうてい及ばない……」と思っていたのではないか。謙虚すぎるほど謙虚な態度であったろう。しかもこの謙虚な気持ちが本当に素直に自然に出ている。これは秀吉が、“臆面もなき向上心”とでも呼ぶべきものを持っていたからだ。
そもそも蜂須賀小六や松下之綱(ゆきつな)などに仕えながら、それに満足せず、信長という新しいもっと大きな可能性を秘めた主人を自分で選んだということ自体、彼の臆面もなき向上心の表れだ。松下之綱などは実にいい主人だったと言われているから、別に前の主人が嫌いで信長のところに行ったわけではない。彼の健康な野心、臆面もなき向上心からすれば、この程度の人に仕えていたのでは……と思ったのだろう。(中略)
こういう臆面もなき向上心を持った男が信長を心底尊敬したのは当然だ。(中略)
そしてこのような臆面もなき向上心―――ここから生まれる心底からの人間的尊敬は、やはり英雄的素質の一つだ。

徹底的な尊敬心を持つ

(中略)心底からの尊敬というのは強い。またおのずから相手に通じるものだ。卑近な話で恐縮だが、大学などにも本当に心底から教師を尊敬している学生と、奉っているだけの学生とがいるが、やはりたった四年の付き合いでも、おのずからわかる。心底尊敬してくれれば、やはり可愛いと思うのが人情だ。信長にとって秀吉は可愛がっている犬のようなものだったと思う。(中略)
秀吉自身も、信長を心底尊敬することによって大きく成長したのだろう。信長から一番多くのものを学んだ者も秀吉だったろう。人は心底尊敬した人物から、知らず知らずのうちに実に多くのものを学ぶ。
大学でも、偉い先生について、その先生を心底から尊敬している弟子は、その器量がどんどん大きくなる。しかし、先生を批判し始めたり、ただ奉るだけになると成長が止まる……というようなところがある。もちろん、その先生が本当に偉い人であればの話だが……。(中略)

揺るぎない実力を示す

(中略)しかし、もう一つ大きな要因がある。人には、上に主人がいたほうが仕事ができる人と、主人がいなくなるとさらに大きく成長する人という二つのタイプがある。
滝川将監(一益)などは前者の典型的タイプだろう。信長のもとでは大変な武将で、関東攻略などではめざましい活躍をする。滝川という人には大変な威厳があったらしい。しかし、信長が亡くなるとなぜか急速に小さくなってしまう。佐々成政などもこのタイプであろう。
しかし、秀吉は典型的な後者のタイプだ。つまり、信長がいなくなるとまたどんどん成長したわけだ(家康などもこのタイプだろう)。上に主人がいてする仕事と、上に誰もいないところでする仕事とは、やはり別物なのだろう。(中略)
そして、この上に主人がいなくなるとまたどんどん成長するというのも、やはり英雄的素質の一つだ。だから、張良が偉い、韓信が偉いと言っても、それは所詮、劉邦が上にいたうえでの話で、やはり彼らは英雄的素質という点ではそれほどではないということであろう。

『人を動かす力 歴史人物に学ぶリーダーの条件』P56~62

 


画像引用元:
https://pixabay.com/ja/%E7%94%B7-%E3%82%B9%E3%83%BC%E3%83%84-%E3%83%92%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%BC-%E5%BC%B7%E5%BA%A6-%E3%82%B9%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%BC-%E3%83%92%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%BC-%E5%BC%B7%E5%8A%9B%E3%81%AA-1902765/

 

個人的に気になっていたことといういのは、秀吉と滝川一益の違いです。

私が思うに、秀吉という人は、信長の家臣であったときは本当に幸せだったのだと思います。それこそ、信長のために一生懸命に働き、そこに生き甲斐を感じていたように思えてなりません。秀吉というと、一介の足軽から天下人まで出世したことが大きくクローズアップされ、世界の過去の出世人としても一、二を争うレベルだと思いますが、天下人となって頂点を極めた秀吉よりも、信長の部下で信長のために働いていたころの秀吉の方が幸せであったのではないかと思えてならないのです。

たしかに、著者のいうように、秀吉は主人がいなくなることで伸びるタイプであったことは確かだと思いますが、幸せという尺度から考えると、上に主人がいてその人に仕えることで幸せを感じるタイプであったと思います。同じように、家康も上がいなくなることで伸びるタイプであったことは秀吉と同じかもしれませんが、逆に、上に人がいなくなることでその幸せは増したような気がしてなりません。秀吉と家康の違いを考えると、この幸せの部分かなと思えてくるのです。

一方で、滝川一益の没落ぶりも興味深いところです。信長が横死する直前は、家老筆頭の柴田勝家や羽柴秀吉などの部将と並んで大軍を任されており、関東の雄である北条氏と東で対峙していました。鬼将軍と呼ばれて恐れられ、武将として、軍のリーダーとしての能力だけであれば、柴田勝家や羽柴秀吉より上であったかもしれません。

ところが、信長が亡くなったという知らせを受けた途端に動揺し、それを知った北条氏に攻め込まれ、大惨敗して居城がある伊勢へ逃げ帰りました。そのあとは、家老筆頭だからという理由だけで柴田勝家の側につき、後継者争いで柴田勝家が秀吉に負けたことによって完全に没落してしまいました。

戦に勝つことが正義であった時代からすれば、必然的な没落ぶりであったわけですが、彼の威厳や能力は、所詮は、信長という水戸黄門の印籠のような後ろ盾があったからであり、部下や相手も滝川一益のことを恐れていたのではなく、その背後にいる信長を恐れていただけであるともいえるでしょう。

このように考えると、サラリーマンが起業しても大半はうまくいかないのは当然であるともいえます。元々ついていた看板が大きければ大きいほど、それを失ったときと現実とのギャップに苦しむことになるのだと思います。つまり、どんなに優秀に見える人であっても、組織に所属している人であれば、多かれ少なかれ、滝川一益的な要素を持っているのだと思います。

このような状況の人が独立する場合、ほとんどの人にとっては、まさにゼロからのスタートとなるのでしょうが、謙虚にいろんな人から学び、かつ地道に努力を積み重ねるということを続けていけば、自然と活路が見えてくるのではないでしょうか。

 

一介の読書オタクより

 


画像引用元:https://www.amazon.co.jp/%E4%BA%BA%E3%82%92%E5%8B%95%E3%81%8B%E3%81%99%E5%8A%9B_%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E4%BA%BA%E7%89%A9%E3%81%AB%E5%AD%A6%E3%81%B6%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%BC%E3%81%AE%E6%9D%A1%E4%BB%B6-PHP%E3%83%93%E3%82%B8%E3%83%8D%E3%82%B9%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E6%B8%A1%E9%83%A8-%E6%98%87%E4%B8%80/dp/4569795617/ref=sr_1_10?s=books&ie=UTF8&qid=1498904173&sr=1-10&keywords=%E4%BA%BA%E3%82%92%E5%8B%95%E3%81%8B%E3%81%99%E5%8A%9B

 

参考図書:『人を動かす力 歴史人物に学ぶリーダーの条件』
発行年月:2011年3月
著者:渡部昇一(わたなべ・しょういち)
発行所:PHP研究所

※本記事の写真はすべてイメージです。本記事は参考図書の一部を引用したうえで、個人的な感想を述べているに過ぎません。参考図書の実際の内容は、読者ご自身によりご確認ください。

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