生産管理の歴史的形成とその特徴 – 橘博

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生産管理の成り立ちからその内容までを系統的に表した記述を探しておりましたら、表題の論文(PDF)を見つけました。論文だというだけでなく、親しみの無い表現が多々有り、読み難い文章ではありますが、なかなか興味深い内容も多く含まれております。

 

生産管理の歴史的形成とその特徴 – 大阪市立大学 / 橘博

 

そこで、興味を持った部分について以下に抜き出してみました。まとめる段階で削ったところはありますが、文言自体には手を加えておりません。時間のある時に、上記のリンク先にある論文をぜひご参照ください。

<論文の一部分の抜粋>

二.生産管理制度の構造と機能

1 生産管理制度の構造

現代の工場経営における生産管理は、剰余価値の生産を主要な目標として、資本主義(その機能の代理者としての経営者・管理者) の労働者にたいする指揮・監督を基本とする作業の指示、品質、工程の規剃を強化しながら、労働過程に労働者をできるだけ長時間拘束する、きびしい支配・統制のかたちをとる。このような生産管理の基本的構造としては、以下のような方式が総括的に理解される。

(1)生産活動の準備、生産の全過程にかんするものとして- 生産方針、生産計画、工場立地、工場配置、工場建設、工業デザイン、設計管理、資料管理、新製品の研究・開発管理。

(2)労働作業の管理に、直接的または間接的にむすびつくものとして- 労務管理へ労働力を確保するための方策として、採用、配置、訓練。労働力の利用方策として、交替制、作業条件の決定、賃金管理、安全・衛生管理、福利厚生。労働者の支配方式として、労資関係、労働組合対策、団体協約、就業規則の締結。労働者の統制方式として、ヒューマン・リレーションズにかんするいっさいの方式、作業管理(作業分析または作業計画と作業統制)、工程管理(手順計画、目程計画、着手統制、進行統舗)、品質管理、検査管理。

(3)機械・設備、工具、治具、生産物など主として生産手段、物的要因の管理に関連するものとして- 機械・設備管理、技術管理(特許権、実用新案権、標準化)、工具・治具管理、測定器具管理、動力管理、熱管理、工場用水管理、資材(倉庫)管理、購買管理、外注・下請け管理、包装管理、運搬管理。

またこのような内容のほか、戦後における生産管理機能の総合的体系化の中枢部分として、以上でとりあげた生産管理の個別的方式のもつ一面性、弱点、限界を補強、克服し、生産過程の全体をより多面的、よりたかい次元より統轄する方式がつくられる。そこでは、生産過程における労働力と生産手段の各要素や、作業、品質、工程、原価など各個の問題点を結合してとりあげる総合的な管理方式がつぎのように設定、運用されるようになった。

 

画像引用元:http://roll.sohu.com/20131123/n390649401.shtml

 

インダストリアル・エンジニアリングにおいて、まず機械・設備能力の把握、それらの工場配置の改善、標準作業の質的高度化、生産工程、品質にたいする標準的規制、作業標準の達成と関連する賃金剃度が設定される。さらに資材の購買、在庫調整、包装・運搬の改善によるコスト低下と、生産管理方式の適用についてヒューマン・リレーションズの観点を強化し、これらをまとめて、管理組織の強化をはかる一連の諸方策が重視される。

メソッド・エンジニアリングとは、テイラーの時間研究、ギルブレス夫妻の微細動作研究、心理研究、疲労研究、そのこにおけるスナップ観察方式、WF 分析、予定時間動作標準(PTS 法)などをまとめて、作業分析(作業研究)方式を総称する。とくに作業分析過程としては、作業の観察・測定、区分・分類、分析・集約などをふくんでいる。

作業分析は、標準作業の設定を基本として、これにむすびつける賃率の決定、原価管理などと関連させて運用がはかられる。

エンジニアリング・エコノミーとは、企業の保有する工場建物、機械設備などの全体の経済的価値を、長期的に検討する方法を総称する。この方式は、とくに設備投資計画の検討に利用される。

バリュー・エンジニアングとは、商品生産のために購入する機械・器具、原材料のコストを少しでも低下させ、品質、性能その他の生産条件の吟味を慎重にはかることを目的とする方策である。とくに、価値分析から設計、技術的な研究をすすめ、その応用をはかり、設計、製造、購買、検査、使用条件などにわたって検討するすべての方策を総称している。

プロジェクト・エンジニアリングとは、一定期間に特定の建設課題をはたすために、建設の完成をもたらすまでの一定の具体的建設計画に必要な、作業の全般的、技術的、経済的、総合的課題の検討をすすめる諸方策をいみするものである。

かくして、このようなI ・Eを中心とする生産管理の構造上の特徴としては、第一に、生産管理において伝統的な標準作業のより厳密な、詳細な規定と、その運用がもっとも重視されている。すなわち、企業経営において、いつでも、どこでも、なに人でも、いかなる作業についても、標準化を適用し、管理活動の全体に、このような資本主義的「合理性」を追求する態度がのぞましいとされた。第二に、これらの管理方式のなかには、第二次大戦中の軍用兵方式として採用されたOR 、LP などが、技術的な方式をきめるための基礎データー作成のために応用され、その結果が管理方式として適用されている。またこれらを基本として、軍需物資の調達において実用化されはじめた包装・運搬管理の諸方式、軍要員、幹部の計画的訓練・養成方式とされたTWI 、MTP などが、大規模に企業管理のなかで応用された。さらに、自然科学、人文科学、社会科学などの諸知識の成果も、総合的に管理方式のなかに具体的にいかされはじめた。

以上のようなI ・Eを中心として構成された生産管理制度の構造のほか、主として一九五〇年代後半ごろから、生産管理システム、コンピューターによる管理活動がしだいに広範に実用化されはじめた。

とくにシステムズ・エンジニアリングは、諸種の管理方式と管理組織の結合体制を管理(経営) システムとしてとらえ、これを総合システムとサブ・システムにわけて理解している。とくに技術方式として、最少の費用で、投入(インプット) の条件をととのえ、中間の段階にあたる処理過程(プロセス) を「合理的」に運用し、さいごに最大結果の産出(アウトプット)をはかることが主眼とされる。ここでも、システムの設計、改善、開発がつねに重要な目的とされる。

さらにPERT とは、所定の期間中に、所定のコストをまもり、一定の工程の進歩状況をよりどころとして、計画的作業の進展を総合的に点検、チェックする方式をいみしている。ここでは計画の達成月標にいたるまで、計画と統制を管理手段とするために、関連図(ネット・ワーク)をつくり、個別作業を、品質、費用、工期を中心に、全体を相互関連的にめんみつに検討することがねらいとされる。

つづいて、Z ・Dとは労働者みずからが、企業における、作業および経営諸活動の全体の分野で、予定以上にコスト、時間、労力の増加する状態を積極的に抑制し、企業の「合理性」に反する「無駄」を自主的、独創的に発見し、これを除去する方策をいみする。この方式も、企業における「合理化」の達成と労働者への、企業意識の注入・強化をつうじ、労資協力体制を意識的につくりだす管理であるとみられる。

このようにして形成された生産管理制度は、企業の全体の管理システムのなかでサブ・システムとして位置づけられ、以下のようないくつかの特性をそなえて形成される。

生産管理システムは、まさしくこのような全体的、統合的管理システムの一環とみられるサブ・システムの構造を有し、全体システムの構造と機能の有力な一部分として構成され、生産過程の管理にたいする独自的な機能をになわされている。ついで生産管理システムは、とくにオート・メーション・システムとして、生産過程における機械・設備と、入間の作業系列を結合するいみから、あきらかにマン・マシン・システムとしての構造を有している。さらにこのような生産管理システムは、とくに作業、工程、品質、原価における多面的な統一的目的を遂行するために、コストの低下、生産性の増大、労働強度の増進という企業の「合理的」目的をはたすために、単一の目的のみをはたす単純システムでなく、複雑システムとしての構造を有している。

そしてもとより生産管理システムも、他のサブ・システムとおなじく、基本とする管理方式のほかに、細目にわたる管理方式につながる。さまざまな手続き・計算方式- 工程管理図・品質管理図など- を所有しているのである。

2 生産管理制度の機能

生産管理制度の機能は、以下のようにまとめられる。

第一に、生産管理の主要な対象とされる労働力と生産手段との結合方式は、作業の遂行を基本として、生産過程にたいする諸要因の投入と、中間の処理過程、最終段階の産出という三段階にわけて、それぞれの機能の確立がはかられる。

第二に、生産管理システムは、これまで全体管理システムの一環として、計画、組織、執行、統制に関連性をもちながら、生産過程にかんする情報の収集、判断、方針の決定、具体的作業内容の決定、命令、行動の開始、完了、事後処理というコースをたどり、管理システム機能が、自動的システムのもとで運用されている。

第三に、生産管理システムの機能の特色としては、企業の生産活動が最大の「合理性」を発揮しうるように、機動的に運用され、とくにここでも生産過程の統一的機能が重視される。

このようにして、よりきびしくコストの低下をはかり、労働生産性を上昇させ、労働強度の増大を実現しうるように、管理機能としての「発展性」が考慮される。ここにおける管理システムの機能原理としては、あくまでも「合理性」「統一性」「発展性」が、工場経営における管理システムのなかで重要な意義と役割をもつことを、さらに重視する必要があろう。

 

画像引用元:http://www.qykh2009.com/prohelp_6565.html

 

三.作業管理の歴史的形成過程とその基本傾向

1 作業管理の歴史的形成過程

テイラーの管理制度は、課業理念の明確化とその実践的具体化により形成されている。そこにいう課業とは、生産の主体的条件として、作業の標準設定とその運用、生産の客観的条件として、機械・工具・材料における標準設定とその運用をふくむものである。それゆえ生産管理制度の構造とその中心的機能として、当初から作業管理(作業計画と作業統制) が重視されたことも、容易に理解しうるところである。

作業管理の形成期には、テイラーの時間研究、ギルブレスとその夫人による微細動作研究と心理・疲労研究、カント、エマーソンの研究業績があげられる。ここでは「合理的」作業の実現こそ、工場管理制度の重要な中心的内容であるとみられた。

作業管理の展開期についてみれば、一九二〇年代- 三〇年代にかけて、アメリカにおけるメリック、ケント、ハサウェイ、テイペット、モーゲンセン、メイナード、バーンズなどの多くの業績をあげることができる。ここでは、時間・動作研究の伝統の継承と、新しい技術方式の発展・展開として、予定動作時間標準(PT S法) の選定、WF 方式、スナップ観察、作業単純化があげられ、作業管理の多様な方式の展開とその適用対象の拡大がはかられた。この時期におけるドイツ作業研究委員会(レフア) のうごきもまたこの点から軽視できないいみをもっている。

作業管理の総合化の段階についてみれば、アメリカを中心にこれまでの伝統的方式の継承とその改善にひきつづき、マンデルのメモ・モーション研究、WF、MTM、BMT、ワーク・サンプリングなどの諸方式が多数考案され、応用されはじめた。

このような諸方式の総括としてのメソッド・エンジニアリングの体系化、これとむすびつくインダストリアル・エンジニアリングの体系的運用により、作業管理は、企業経営の「合理化」と「近代化」にとっての重要な手段とみなされた。西ドイツにおける労資協力体制のもとでのレフアを中心とする「生産性向上」のうごきも、実質的には生産過程の「合理的」編成によるコスト低下と生産力の増加、資本蓄積の強化にやくだてられた。

かくして、I ・E の段階の中心として、作業管理は重要な役割をはたし、その後、生産管理のシステム化、自動化、機械化のもとで、作業システムとして形成され、機能をはたしている。

2 作業管理の主要傾向
要するに作業管理における典型的な傾向としての、標準的作業条件の設定と運用は、とりもなおさず生産諸条件の標準設定とその運用にまったくむすびついている。しかもかかる作業生産・条件の標準化は、きわめて体系的に構成され、それらは企業経営の中枢的管理手段として重視されている。なぜならば作業の標準化は、ただちに工程、品質、原価の標準化と一体化され、総合的に運用がはかられる。

要するに作業の標準化、生産諸要因の標準化は、とりわけ生産過程における労働者にたいし、休息時間の制限、実際労働時間の延長をもたらし、資本主義的管理体制のきびしさをいっそう増大させることになる。

作業管理は、まさしく資本の専制的支配をつよめ、企業内部における多種多様な労働者の作業内容、いわば「人の動き」を、資本の側からきびしく規定し、その体制の基礎のうえに、それを前提として綿密な作業計画、生産計画がたてられ、運用がはかられる。これらはいずれも剰余価値生産の基本目的をより効果的に、組織的に、しかも「科学的」にはたそうとするねらいをもつものにほかならないのである。

 

<以上、抜粋おわり>

 

記事引用元:http://www.isl.hk/blog/bobby/archives/1127

 

June 15, 2015 | Posted by bobby

石水智尚 / 総経理 艾斯尔计算机技术(深圳)有限公司

ウェブサイト:http://www.isl.hk/

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