なんでもできるはなんにもできない

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読書オタクが語る日本図書シリーズ 第25回

~『自分の時間』(アーノルド・ベネット)を読んで学んだこと~

 

自分の時間は何のためにあるか?

 

「たいていの人間は眠りすぎて馬鹿になっているのさ」
さらにつづけてこの医者が言うには、「10人のうち9人の人間は、ベッドで過ごす時間を減らせばもっと健康になり、もっと人生を楽しめるだろう」とのことだった。
他の医者にも話を聞いたが、皆、同様の意見だった。もっとも、これは育ちざかりの子供たちに当てはまらないことは言うまでもない。

『自分の時間』P22

 

これを読んでギクっとしたのは恐らく私だけではないでしょう。正直なところ、これを是正しただけでも自分が使える時間がかなり増えると思います。

本書はどうも約百年前のロンドンが舞台のようで、ロンドン市民ではない読書オタクにとっては、見たことも聞いたことも無い地名がたくさん出て来て多少閉口するのですが(笑)、内容はとても基本的かつ普遍的な、時間の使い方に関して書かれています。私自身勉強不足でお恥ずかしいのですが、本書の著者であるアーノルド・ベネットは20世紀初頭のイギリスの大作家であり、非常に多くの作品を残しているようです。つまり、彼は、本書の表題にあるとおり、「自分の時間」の使い方に関して、とても理解していた人間の一人であるといって間違いないでしょう。

まぁ前置きはこれくらいにして、本書で一番気になったところをご紹介します。

 


画像引用元:https://pixabay.com/ja/%E6%99%82%E8%A8%88-%E6%99%82%E9%96%93-%E5%BE%85%E6%A9%9F%E3%81%99%E3%82%8B-650753/

 

【この本のポイント!】

思いと行動との「落差」に気づいているか?

(前略)学ぶべきことは文学ではないし、それ以外の芸術でもない。歴史でもなければ科学でもない。ただ「己(おのれ)自身を学ぶ」ということだ。

「人間よ、汝自身を知れ」というのはあまりに言い古された文句であり、そう書くことも恥ずかしい気がする。
が、これはどうしても書いておかねばならない。その必要があるからだ(気恥ずかしい気がすると書いたことこそはずべきで、これは取り消しておきたい)。私は声を大にして言っておくべきだ。「人間よ、汝自身を知れ」と。

(中略)ともあれ、心正しき平均的な現代人の生活に何よりも欠けているのは、内省的気分であるのは間違いない。
われわれは自分のことを振り返って考えることをしない。つまり、自分の幸福とか、自分の進もうとする道、人生が与えてくれるもの、いかに理性的に決断して行動しているか(あるいはしていないか)、自分の生活信条と実際の行動の関係など本当に大切な問題について、自分というものを見つめることをしていない。

(中略)実際に幸福を手に入れた人もいる。そういう人たちは、幸福とは肉体的、精神的快楽を得ることにあるのではなく、理性を豊かにし、自らの生活信条にかなた生き方をするところにあると悟ることによって、幸福を自分のものとしているのだ。
このことを否定するほど、あなたは厚かましくもあるまい。

(中略)あなたがどんな生活信条をもっていようと、ここでは一向にかまわない。
あなたは自分の生活信条から、「盗人にも三分の理あり」と信じているかもしれない。それでもかまわないのだ。綿日が強調したいのはただ、自分の行動が自分の生活信条と一致していない人生というのは、無意味な人生だということなのである。
そして、行動と生活信条を一致させるためには、日々の生き方をよく検討し、自分を振り返り、断固として行動するしかないということである。
盗みをした人間が後々までも後悔することになるのは、盗むという行為が彼らの生活信条に反したことだからである。もし、彼らが盗みは道徳的に立派なことであると心から信じてやったことなら、刑務所暮らしもまた楽しからずやということになるであろう。
こう考えると殉教者は皆、幸福な人間ということになる。なぜなら、彼等の行為は自らの信条と完全に一致しているのだから。

1日の終わりに自分を振り返る心のゆとりをもつ

(前略)確かに本は価値がある。が、しかし、本さえ読めば、それでもう最近やったこと、これからやろうとしていることを、毎日きちんと率直かつ正直に検討しなくてもいいということにはならない―――いくら本を読んでも、やはり自分をしっかり見つめることは必要である(自分を見つめるというのは、はなはだ狼狽させられる作業ではあるが)。(後略)

『自分の時間』P97~105

 


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自分を見つめろというのは、結局のところ、一度しかない人生で何をしたいのかよく考えなさいということだと思います。それを真剣に考えないで、ただ周りに流されて日々を過ごす限りは、どんなに睡眠時間を削って猛烈に働いたとしても、気が狂いそうになるまで勉強したとしても、一向に報われないということです。

その昔、ある人生の大先輩が、「なんでもできるはなんにもできない」とおっしゃっていましたが、この重みは、私の中で年を経るごとに大きくなってきています。つまり、何をやりたいか、自分としてどうしたいかをちゃんと決めなければ、いくらスキルを身に着けてもキリがないですし、そもそもそのような態度では何一つ極めることが出来ず、結果として中途半端な何もできない人間で一生を終えてしまうと言われた気がしました。ちなみに、その方は、エンジニアとして非常に高いスキルを身に着けておられました。

 


画像引用元:
https://pixabay.com/ja/%E7%A0%82%E6%99%82%E8%A8%88-%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF-%E7%A0%82-%E6%99%82%E9%96%93-%E3%83%8A%E3%83%83%E3%83%97-%E5%88%86-%E6%99%82%E8%A8%88-%E6%99%82%E9%96%93%E3%81%AE-1875812/

本書を読んでいると、話している内容は非常に現代的というか、現代人にもスッと理解できるような耳の痛くなる話がたくさん出てくる一方で、ところどころわけのわからない地名やら固有名詞などが出て来て混乱しますが、非常にためになります。本書を読んでやや驚いたことは、というより当たり前なのかもしれませんが、どうすれば時間を有効活用できるか、ダラダラ生活から抜け出せるか、などの悩みは、100年前も今もまったく変わらないということです。100年前と比べれば、交通機関は非常に発達していますし、パソコンやスマホの登場で仕事の作業効率は随分と上がっているはずですが、恐らく、100年前のロンドン市民より現代人の方が、より時間が無いと騒いでいると思います。

となると、時間不足の主因は、やはり、そのような外部要因ではなく、内部要因、つまり、考え方に起因することは間違いないでしょう。心にゆとりが無くなっているのです。

本書の他の箇所では、「時間があれば金は稼げるが、金があっても時間は買えない」、「人生のすべては、時間の利用の仕方次第で決まる」、「スケジュール表で時間はつくれない」、「無意識が生み出す膨大な“もったいない”時間」、「頭の中に「内なる1日」をつくる」、「小さな一歩からでないと「習慣」は変わらない」、「電車の中にいても頭の働きに磨きはかけられる」、「あらゆることの「原因と結果」を頭の中に入れておく」、「「努力して読む」から、それはあなたの粮となる」、などもオススメです。いずれにせよ、一見の価値がある本です。

みなさんも、自分を見つめ直して、心と時間にゆとりをもちましょう!

 

一介の読書オタクより

 


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参考図書:『自分の時間』
発行年月:2016年5月
著者:アーノルド・ベネット(Arnold Bennett)
訳・解説者:渡辺昇一(わたなべ・しょういち)
発行所:三笠書房

※本記事の写真はすべてイメージです。本記事は参考図書の一部を引用したうえで、個人的な感想を述べているに過ぎません。参考図書の実際の内容は、読者ご自身によりご確認ください。

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