みなさんは実力を出し惜しみしていませんか?
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読書オタクが語る日本図書シリーズ 第86回
~『ロケット・ササキ』(大西康之著)を読んで学んだこと~
自分たちだけがいい思いができる期間など高が知れている。
本書の主人公は佐々木正さんという方です。
佐々木さんはシャープの元副社長で、去る2018年1月31日に102歳で亡くなりました。
2月上旬に開催されたソフトバンクの四半期決算の報告会で、登壇した孫さんに対して、質疑応答の時間に、ある記者が佐々木さんが亡くなられたことについて孫さんに質問されていました。
私は本書を読む前から佐々木さんのことを知っていましたが、かつて孫さんに関する本を読んだとき、孫さんがソフトバンクを起業する前につくった翻訳機をシャープに売る際、時の役員であった佐々木さんにお世話になったということで知りました。
本書を読めばわかりますが、佐々木さんは、ソフトバンクの孫さんだけでなく、アップルのスティーブ・ジョブズや松下幸之助さんなど、その他の有名起業家とも密接な関りがあったことがわかります。佐々木さんの功績は彼らと比べても遜色ありませんが、彼らとは違い、佐々木さんはどちらかというと知る人ぞ知るという方であったのだと思います。
では、特に気になったところを以下に引用します。
画像引用元:https://pixabay.com/ja/醸-スタートアップ-起業家-先見の明-ホワイト-ボード-ルーム-3267505/
【この本のポイント!】
エピローグ 独占に一利なし
(中略)「思うに、シャープの第一の失敗は、何でもかんでも一人でやろうとしたことでしょう。君たちの言う『オンリー・ワン』や『ブラックボックス戦略』は、いささか傲慢だ」
「傲慢ですか?」
「そうだ。唯我独尊と言ってもいい。全てを自分たちでやり、成果を総取りしようという意図が見える。しかしイノベーションとは、他の会社と手を携えて新しい価値を生み出すことを言うんだよ。シャープはそうやって大きくなってきた」
高橋は神妙に頷いた。(中略)
「我々日本メーカーはアメリカに半導体を教わった。半導体で日本に追い付かれたアメリカはインターネットに飛び移り、グーグルが生まれた。わからなければ教えを請う。請われれば教える。人類はそうやって進歩してきたんだ。技術の独り占めは、長い目で見れば会社にとってもマイナスになる。」
それは1970年のことだった。半導体の開発で行き詰ったサムスン電子の会長、李健煕(イゴンヒ)が佐々木の下を訪れた。
「佐々木さん、助けてください」
韓国帽を脱いだ李健煕は、プライドをかなぐり捨て、佐々木に半導体の技術指導を求めてきた。その時、佐々木の頭に浮かんだのは、終戦直後、発見したばかりのトランジスタを教えてくれたベル研究所のバーディーンの顔だった。
(日本人だってアメリカに教わってここまで来た。技術は会社のものでもなければ国のものでもない。人類のものだ)(中略)
技術を抱え込んで、自分たちだけがいい思いができる期間など高が知れている。門戸を閉ざした国や企業は競争のダイナミズムを失い、やがて失速していく。電卓戦争の後、松下幸之助がシャープに教えを請うた時、早川徳次は「教えてあげなさい。それで潰れるシャープではない」と言い切ったではないか。
シャープとの提携をきっかけにサムスンが日本に追いついてくるのなら、日本はその先に行けばいい。だが、日本の半導体産業はいつまでもDRAMに固執し、衰退の道を歩んだ。
(日本半導体産業の敗因は、外に技術を漏らしたことではなく、自らが足を止めたことにある)
佐々木はそう考えている。
『ロケット・ササキ』P241~P251
画像引用元:https://pixabay.com/ja/建設-描画-エンジニア-リング-建築家-ビルダー-プロジェクト-2682641/
本書は、本人が書いていない自伝という意味では、ソフトバンクの孫さんに関する自伝記と同じですが、にもかかわらず、内容はそれと遜色なく、かつナイキ創業者のフィル・ナイトが自ら書いた『SHOE DOG』に引けを取りません。
むしろ、本書は佐々木さんの生い立ちから技術者として立身出世する様が描かれており、読みながら日本や世界の歴史をも自然と学べてしまえるような構成になっています。
内容が面白いですし、とても勉強になるのでぜひすべて読んでいただきたいのですが、私が読んでいてハッとしたのは、エピローグの今回の引用箇所です。
特に響いたのは、「自分たちだけがいい思いができる期間など高が知れている。」という部分です。
最近、特に思うのは、力を出し惜しみするべきではないということです。ノウハウや情報を出し惜しみして抱え込む人や会社がいますが、佐々木さんからすると、そのような人たちは言語道断でしょう。自ら成長することを放棄してしまっているから。
また、自分の実力をすべて出してしまうことで、それを超えようというモチベーションや超えなければ食えなくなるという危機感が生まれます。そうやって、前の自分よりも成長していくわけです。
だいたい、ノウハウや情報、技術や人脈などを他人に公開したところで、それを知った側が簡単に活用できるわけではありません。ほとんどのことは、それなりの実力が伴っていないと使いこなすことができないからです。
それに、自分が情報を出すからこそ相手も情報を出してくれますし、アイデアや技術などは、自分だけで出せる範囲など限られています。多くの人とアイデアや技術を共有するからこそいいものができますし、アイデアを出すことよりもそれをスピード感をもって実行することの方がよっぽど大事です。最近はオープンソースで公開することが主流になりつつありますが、情報を抱え込むこと自体が如何に意味がなくなってきたというのが如実にあらわれていると思います。
本書の帯には「この男をなくしてシャープの興隆はなく、この男をなくしてシャープは墜落した。」と書かれています。本書を読む前は、そこまですごい人か?と思っていましたが、読後にはつい、「シャープ」のところを「日本」に置き換えてしまいたくなりました。
一介の読書オタクより
画像引用元:https://www.amazon.co.jp/ロケット・ササキ-ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正-大西-康之/dp/4103500719/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1524288038&sr=1-1&keywords=%E3%83%AD%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%B5%E3%82%B5%E3%82%AD
参考図書:『ロケット・ササキ ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正』
発行年月:2016年5月
著者:大西康之(おおにし・やすゆき)
発行元:新潮社
※本記事の写真はすべてイメージです。本記事は参考図書の一部を引用したうえで、個人的な感想を述べているに過ぎません。参考図書の実際の内容は、読者ご自身によりご確認ください。
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