マレーシア:多民族社会 下
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独立後のマレーシアではこうした民族の違いが政治経済上の問題となってきた。独立直後のマレーシアでは各民族集団が自身の利益を代表する政党を作り、それを元に交渉を行うというバーゲニングの時代を経験した。経済的には自由市場経済を目指した。こうした政治経済上の態度は華人に有利に働いた。都市部で経済利益を追求しながら政治的交渉も自由に行うことができたためである。反対にマレー人は自由市場経済の下では強固な資本も都市部での経済基盤もなく、ゆえに経済利益を得ることが非常に困難であった。こうした経済格差と政治交渉の自由さによってマレー人の華人に対する不満は大きかった。
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http://e-vis.hatenablog.com/entry/2015/06/28/234325
1969年の選挙では華人票が野党へと大幅に流れた。流れた理由としてはマレー語の国語化に比して華語が軽視されているというような要因があるが、与党から野党へと投票し、既存の政治体制を脅かした華人に対してそれまでの経済的不満が相まり、5月13日にマレー人と華人の間で大規模な衝突が発生した。死者196人に上るこの「人種対立」は現在もマレーシアの政治的トラウマとなっている。
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http://laughbombclub.com/article/63379-%E5%93%86%E5%95%A6A%E5%A4%A2%7C%E7%9B%A4%E9%BB%9E%E9%9B%BB%E5%BD%B1%E4%B8%AD%E6%9C%80%E5%B8%B8%E5%87%BA%E7%8F%BE%E7%9A%84%E5%9B%9B%E5%A4%A7%E6%A9%8B%E6%AE%B5
この人種対立を経て、経済弱者でありながらも政治的発言力を大きく持つ最大多数派であるマレー人不満解消が政治的平穏には不可欠と考えた与党連合はそれまでの自由政治交渉と自由市場経済という方針を一変し、資本の再分配とマレー人を保護する方針を打ち立て、それを新経済政策とした。この政策の範囲は広く、マレー人の都市部流入を促すための不動産助成や教育助成なども含まれている。この政策を実現するために、強固なリーダーシップとそれを実行に移すための権力集中を果たすことができる権威主義体制が打ち立てられた。UMNOが主にこれを率いたのである。マレーシアを引っ張る強固なリーダーシップと権威主義体制はマレー人を優遇しつつも民族間での不満を抑制することを目的に作り出された。
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http://blog2-politik.blogspot.com/2013/06/melayu-berwawasan_25.html
Satu Malaysia(サトゥマレーシア)、日本語で「ひとつのマレーシア」という標語は2010年に、ナジブ首相によって打ち出された。ひとつのマレーシアとは、マレー人、華人、インド人という三大民族の他にオランアスリなどの少数民族も含め、文化政治経済的にひとつのマレーシアを構築するということである。このことが示すのは、まさしく民族の分断が現在まで尾を引いているということだ。民族的差異と衝突、そしてそこから発生した政治経済的しこりは根強いものであると認識され続けた。
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http://krtdpb.blogspot.com/
しかし、視点を変えるとこうしたことは大なり小なり政治経済的利益を求めての衝突であると考えられる。経済学的用語で言う「ホモ・エコノミクス」、言い換えると経済的利益に基づいて合理的に行動する人々が、彼らの利益を最大限に実現するために、民族的アイデンティティを引き合いにして政治的行動を起こすという政治学で言う「アイデンティティ・ポリティクス」がここでは描かれていることに気づく。自分の利益を追求するには、何か分かりやすい共通項を持った仲間を作り、彼らと共に主張をすることが肝要である。言語的・宗教的に均質だと仮定されやすい民族集団を作り上げ、それを元に利益を主張するということはある意味で道理を持った行為である。
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http://sharebestpracticesblog.com/2013/07/when-things-go-south/
しかしここで強調しておきたいことは、人間は概して一から十まで合理的に行動するとは限らないということだ。人間関係は非合理的な関係性と言っても過言ではない。衝動的に恋をし、愛する人と語らい、生涯の友を得、将来の青写真を共に描く。人々の日常的な実践において、こうした相互行為が重なり合っている。経済人、アイデンティティ・ポリティクスといった言葉では表現できない非合理性が日常生活を支えているのだ。
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https://pixta.jp/tags/%E6%94%AF%E3%81%88%E5%90%88%E3%81%84?search_type=2
選挙ではお互いがお互いの利益を主張し、力比べをする。政治的対立が衝突を生み、経済的不満が凄惨な結末をもたらす。こうした多民族社会にあって、しかし、学校教育の場、向こう三軒両隣、同僚関係、趣味の集まり、NGO活動等政治経済的利益を追求することとはまた一味違った関係性を築くことも多々ある。加えて、近年のグローバル化、都市化、都市への流入、インターネットの普及が若者を中心に交流を持つ場を作り上げている。ここには、日本の寄与も見られ、アニメーションやゲームといったソフトパワーがインターネットの普及と重なり合って、新たな言論の場や交流の場を設けることに一役買っている。日系企業の進出から、都市部の若者がこうした企業に雇用されることで新たな同僚関係を結ぶこともある。こうしたことは先ほどの新経済政策によるマレー人の都市部流入による側面もある。都市部に移住することで、元来都市部に集住してきた華人と接触する機会も増えていく。
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http://teachwithoutborders.blog38.fc2.com/blog-entry-14.html
こうした関係性は先述のブキットビンタンの事例とは異なった様相を見せてくれる。政府系の職業に就くマレー人や小さな工場を経営する華人、換金業や飲食経営のインド人といった分業の構造は根強い中で、例えば外資系のオフィスに勤め、異なった民族の同僚と昼食を共にし、スポーツ活動といった趣味の場では多民族の集まりに参加するといった人々を想像することは難しくない。
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http://www.malaysiacuisine.com/2013/06/restoran-sai-woo-jalan-alor-kuala-lumpur.html
先ほどのブキットビンタンにある高級路線のショッピングセンターを歩いてみる。昼時になると現地のアクセントと文法的特徴を帯びた早口の英語で、Eat at where ah?というようなことを話すグループに出会う。日本語では「今日はどこで食べようか」と訳せるであろうが、民族を超えて一群になって昼食を考えながら笑みをこぼす人々が目に飛び込んでくる。
考えてみると確かにそうで、人間の特徴は民族によって全て決まるわけではなく、色々な特徴を棄て去り、ある一つの特徴を取り出して拡大し、誇張することが民族を作る際の常套手段になっているわけである。合理的に行動し利益を常に意識し続けるのならばきっとこうした特徴や差異は意識され続けるのであろうが、非合理性に支えられた人間は同僚関係を構築する中で今目の前にいる一個人を相手に新たな特徴を見出しそこに魅力を感じ、非合理的に交友関係を作り上げていくのであろう。
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http://www.sjs.edu.sg/changi/nikki/happy_3968.html
この事例は主に英語を話し、都市部の外資系企業などで働くミドルクラスやエリート層に当てはまることでもあり、他の社会階層には当てはまらないようにも感じられる。しかし先述のようにインターネットの普及やアニメーションの流行といったことは若者が交流を持つ場を増加させていく。インターネットカフェは国内のいたるところで見られる。こうしたことからも交流は急加速していると思われる。新聞を開いてみると、民族を超えた趣味の仲間や飲食店経営の記事がよく見られる。こうしたことは相互行為が何もミドルクラスによってのみ行われているのではないことを示している。
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http://travelwritingsarawak.blogspot.com/2015/08/diversity-of-culture-after-high-school.html
マレーシアで大きな人気を博しているカフェがあります。オールドタウン・ホワイトコーヒーなどに代表されるKopi Tiam(コピティアム)、日本語で「珈琲店」と訳せる。コピとはマレー語でコーヒー、ティアムは福建語で店という意味だ。名前にも民族の交流が見え隠れしているが、そこで提供されるメニューも板麵という薄切りの中華系麺料理からNasi Lemak(ナシレマ)というマレー系のご飯料理まであり、訪れる客層も多民族からなっている。
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http://www.malaysia-magazine.com/kl/gourmet/TheLibrary/
政治経済的な対立を内包しながらも非合理的な日常生活の中では民族を超えた出会いと友情を築き上げようとする人々の姿がマレーシアから見えてくる。
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http://thecoverage.my/lifestyle/10-reasons-date-chindian/
八木暢昭
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